活動報告

セミナー・レポートサマリー 92


■第1回野外セミナー・レポート 平成13年6月7・8日
「上高地地域の自然観察と自然景観に配慮した砂防事業」

 関東・関西・中部・新潟から、会員19名が松本駅に6月7日午前11時に集合、貸切りバスで上高地に向かう。途中の混雑もなく、予定より早めに上高地に到着した。河童橋周辺でしばし山の眺めを楽しむ。
 国土交通省松本砂防工事事務所長田環境対策課長、伊巻建設監督官から室内で砂防事業の説明を受けた後、上高地から明神池にかけて約2時間半、梓川の砂防施設を見学した。
 昭和58年度に策定された「上高地地域保全整備基本計画」に基づき、環境保全に配慮しつつ砂防工事が実施されている。具体的には、護岸はほとんどが蛇籠かふとん籠であり、その上に土砂がたまりヤナギなどが生育しているところもあった。また、河川を横断する帯工は表面を自然石仕上げとし、また高さもおさえているので構造物が見えなくなっている。
 実際に施工状況を見た明神橋の上下流に、帯工が設置されているのだが、どこにあるのか気がつかなかった。工事期間を観光シーズン後に限定しており、11月中旬から雪のまだ少ない1月末までの2か月半の間に行っているとのことだった。出水状況監視のためのモニタリングカメラシステムがよく整備されていることも印象に残った。
 翌日は、ほぼ快晴の好天。大正池ホテルの前から、自然公園美化管理財団職員の解説による自然観察をしながら歩く。大正池からは焼岳と穂高岳がよくみえる。田代池には居ついてしまったオシドリやマガモがいて、人が近づいてもまったく逃げない。綿のようなヤナギの種子が飛ぶなかを河童橋まで歩いて一時解散。しばらく自由時間を楽しんだ後、午後1時バスターミナルをあとにした。
 梅雨入り直後にもかかわらず好天に恵まれ、楽しく充実したセミナーであった。

(レポーター:尾瀬林業(株)楠 直)

■第1回技術セミナー・レポート 平成13年7月31日
「干潟生態系の特徴と底生動物調査法」

講師:
東邦大学理学部大学院理学研究科 教授 風呂田 利夫
 近年、諫早湾干拓や藤前干潟・三番瀬埋め立て問題など、干潟・浅海域における開発事業と環境保全との調整がめまぐるしく展開されている。このような時代背景のもと、環境アセスメントにおけるスコーピングに当たっての干潟生態系の概略検討を念頭に、その特徴と底生動物調査に関して留意すべき事項についてご講演いただいた。
 沿岸域の開発により消滅した干潟は、大都市周辺の内湾・内海のみならず、地方小河川河口干潟にまで及び、残された僅かな干潟の保全が急務とされながらも、地域内外の利害関係からその調整に手間取る事例が後を絶たない。
 それだけに、環境アセスメントにおける調査の信頼性が問われている。そのような現状で、講師は自らの実体験から得られた調査データに基づき、干潟生態系の特徴から説き起こし、その実態の把握に至る方法論を展開された。調査実績の積み重ねとそのデータの公開こそが、全体のレベルアップ、信頼性の向上に欠かせないものであることが、講師の体験を通じて迫ってくる思いがした。
 調査を進めるほどに、未解明の部分がクローズアップされる事象が多く、より細分化された解析が求められる実情から、調査活動は一調査地点に終わらせることなく、幼生分散の問題から周辺干潟との関連など、より広域的な考察が求められていることが指摘された。そのことが、現実的な問題として理解できる。
 事業者・行政機関・学識経験者・検討委員会と並んで、アセスメント関連調査会社・機関としての自覚と責任のもとに、社会へ向かって明白に説明できるよう、より一層の実行力を備える必要性を痛感した。


講演録報告書(会員のみ) >>>
(レポーター:総合科学(株)小角 浩)

■第1回技術セミナー・レポート 平成13年7月31日
「物質循環からみた干潟生態系の特徴」

講師:
独立行政法人水産総合研究センター
中央水産研究所海洋生産部物質循環研究室 室長 佐々木 克之

 干潟は、漁業生産やレクリエーションの場、水質浄化、渡り鳥の中継地などの視点でとらえられる。これら干潟の機能は、生物の機能であること、干潟生態系を知るには、その構造と機能を把握する必要があり、干潟水域の開発アセスでは、各栄養段階別にそれに対する影響評価を行うこととなる。それには、それぞれの生物が干潟水域で果たしている役割を知るとともに、生活史などの生物学的知見が重要であることが指摘された。
 藤前干潟、三番瀬埋め立て問題、中海本庄工区開発問題、諫早湾干拓計画、中部国際空港問題を例に、問題点やその経過が示され、地域特性を把握し、何に焦点を当てて調査を行うかによって結果は全く異なったものになるなど、一概に干潟といっても、各干潟ごとに異なった地域特性や構造を持っていることや、事業内容によって、何に焦点を当て、どのような調査を行うかといった十分なスコーピングの重要性を再認識させられた。
 干潟での物質循環の見方として、中海本庄工区問題を例に、物質循環の考え方の第一は物質収支であり、生物間の物質交換速度、懸濁物質の沈降速度や堆積速度を把握し、もともとそれぞれに特有な反応を知って、必要な調査を行うことであることが述べられた。干潟水域の物質収支の解析に関して、ボックスモデルでは、(現存量の時間変化量)=(負荷量)+(沖側ラインにおける出入り量)+(変化量)の式を用いる。
 ここで最後に求められる変化量は、干潟水域での生産量または浄化量を示している。また、流出土砂量に視点を当て、陸域の土地利用形態と、海についても物質循環の立場から考えることが重要であることなどが指摘された。
 以上、「海域生態系における干潟・浅海部の重要性」「干潟生態系の影響評価に対する物質循環の視点」および「何が問題で、そのために何を調査・分析する必要があるか、解析は十分か等のスコーピングの重要性」など、本セミナーでの指摘事項は、われわれが携わる業務において、より徹底すべきであることを痛感させるものであった。


講演録報告書(会員のみ) >>>
(レポーター:(株)パスコ 平畑武則)




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