活動報告

セミナー・レポートサマリー 88


■第1回技術セミナー・レポート 平成12年8月1日
「公共事業の実施と合意形成について−河川・海岸環境を中心に」

講師:建設省土木研究所河川部 部長 宇多高明
 今回の講演では、公共事業に関する合意形成について、積極的に現場へ出かけられ、地元住民などとの対話の場に参加されている土木研究所の宇多氏のお話を聞くことができた。
 1997年に改正された新河川法、99年に改正された新海岸法では、事業の実施にあたって地方公共団体や地域住民の意見を反映させることが理念として掲げられている。今回の講演では、新海岸法施行にあたっての新しい試みとして、住民と行政側との対話の場となる懇話会を設け、住民合意型海岸事業を進めている青森県木野部海岸の事例が紹介された。
 講演のなかでは、懇話会での対話をとおして明らかになったこととして、行政側と住民側では考えている「あるべき海の姿」が異なっていたこと、同じテーブルにつき、同じ目線で、ときには全員で海岸を視察しながら話をすることで住民側の不信感を軽減できたこと、住民が考えている海岸整備について知ることができたことなどが話された。
 われわれコンサルタントの仕事はこれまで、ともすれば構造物の設計、積算に関するコンサルティング中心で成り立っていた部分がある。しかし、宇多氏が言うように、今後は行政でもなく市民でもないという中間的な立場で、かつ専門的な技術者としての判断に立脚して議論を進めたり、あるいは調停役を務めることが求められるようになっていくだろう。
 事業者側と地域住民との間で対話が求められるようになった背景には、市民レベルでの意識の向上が理由の一つにあげられよう。従来、意識の高い住民の存在は「仕事の進めにくさ」としてとらえられることも多かった。しかし今後は、よりよく仕事を進めるうえで、多くの人に「何が起こっているのか、起きようとしているのか」を知ってもらい、市民と行政側との間に良い意味での緊張関係を築くことが必要になっていくだろう。市民レベルの意識の向上にともない、われわれコンサルタントの側にも、それに対応した変化が求められていると強く感じた講演であった。
講演録報告書(会員のみ) >>>
(レポーター:(株)環境指標生物 田澤祐介)

■第1回技術セミナー・レポート 平成12年8月1日
「公共事業の実施と合意形成について−生物環境を中心に」

講師:東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学科 助手 清野聡子
 公共事業の実施にかかわる合意形成について、「生物環境」「漁村環境」「都市型の海浜環境」の三つの事例を中心に、講師の実体験と豊富な資料をもとに解説していただいた。「生物環境」では、大分県八坂川の河川改修にかかわる守江湾干潟の保全と、港湾建設にかかわる中津干潟の住民への情報開示についてお話をいただいた。
 両干潟ともカブトガニをはじめとする希少生物が生息しており、その生物多様性の高い干潟の保全の重要性は周知の事実である。守江湾干潟の例では、河川改修と干潟の保全について住民と一緒に検討している最中に洪水が起こったことにより、住民の意識は干潟の保全から防災、河川改修に変わってしまい、それらの意識を再び「干潟の保全」に戻すまでに1年以上かかったという。
 一方、中津干潟では、情報開示の遅れや、調査の現場を知らないがための誤解などによる行政への住民の不信感を払拭するために、カブトガニのブックレットの作成により情報開示に努めたことや、現地調査時の苦労を実際に見て納得してもらったことなど、地元との接点を保って合意形成を進めたことが話された。
 生物環境の現場で実感することの一つに、地域の自然史(ナチュラル・ヒストリー)のデータがほとんどないことがある。地域の自然史は、地元の愛好者などアマチュアによる長年の知識の積み重ねに頼るところが大きく、こうした情報があるところでは、予測や評価が行いやすく、合意形成も速やかに行われることが多い。
 このような現状を踏まえると、現在各地で行われているアセスをはじめ、各種のデータや標本は、地方博物館などの施設に保管され、有効に使われるべきであり、全国的にこのような機運が高まっていくことを期待したい。
講演録報告書(会員のみ) >>>
(レポーター:(株)建設技術研究所 野中俊文)

■野外セミナー・レポート 平成12年7月6日〜7日
「尾瀬自然観察研修会」

 平成12年7月6〜7日に開かれた、日光国立公園の特別保護地区尾瀬の自然観察会に参加した。今回は参加者を4班に分け、群馬県側の鳩待峠から入り、尾瀬ヶ原・尾瀬沼を経て会津・檜枝岐に下山するコースを途中一泊して歩き、尾瀬の自然をはじめ、現在に至るまでの開発と自然保護の歴史をレクチャーしていただいた。
 一日目は暑くもなく寒くもないまずまずの天気で、鳩待峠−中田代の元湯山荘間を参加者は心地よい汗をかきながら講師の先生方の話されることに熱心に耳を傾けて歩いた。
 今年は雪解けが遅かったため、春の植物と夏の植物が同時に芽吹いており、尾瀬に生育する植物のほとんどを観察することができるという幸運な年であった。夕食後は、尾瀬の歴史について、尾瀬林業(株)・楠氏に尾瀬の歴史、開発計画による危機、保護の現状をレクチャーしていただき、今も昔も変わらない開発と自然保護とのはざまを垣間見た。
 二日目は前日と同様の天気で、中田代−沼山峠間を歩いた。途中、尾瀬沼ビジターセンターを見学し、尾瀬保護財団職員によるスライドを見ながら現在に至るまでの尾瀬の保護にかかわった人々の努力についてレクチャーを受けた。特に排水処理施設の説明で、トイレの建設に1億5000万円の費用がかかっていることに、参加者は一様に驚いていた。さらに、うち50〜60%は建築機材の輸送費であるとのことで二度驚いた。
 今回のセミナーは、広大な尾瀬という自然がさまざまな人々によって守られ、支えられなければ維持・存続できないという厳しい現実を改めて認識させられる貴重な研修であった。また、今後の自然保護に対する取り組み方にも、今まで以上に視野を広げること、さまざまな視点から考えていかなければならないことを、尾瀬に教えてもらったような気がする。
(レポーター:(株)ピー・シー・イー岡本 生)

■野外セミナー・レポート 平成12年7月18日
「小櫃川河口干潟自然観察研修会」

 本年度第2回目の野外セミナーは7月18日、昼間の干潮を利用して、東京湾に残された数少ない干潟の一つ「盤州」で行われた。折よく前日までの強烈な夏の日差しも和らぎ、南の風、高曇り、絶好の干潟観察日和であった。
 内房線巖根駅集合、直ちに民宿「与兵衛」に向かい、身支度を整えて現地に赴く。当セミナー担当・楠さんから本日の講師として、東邦大学・風呂田助教授、三洋テクノマリン(株)・平井環境技術部長、アシスタントとして東邦大学・木下さん、三洋テクノマリン(株)・小堀さんが紹介され、総員31名、いよいよ河口湿地に降り立った。
 房総半島の清澄山、元清澄山を源流とする小櫃川は流路延長およそ88km、流域面積約270km2。半島最大の河川であり、その河口域に「小櫃川河口干潟」が存在する。河川が運搬してきた土砂の堆積が、河口部の三角州・河口湿地から海岸部前置層の前浜干潟、浅瀬海域へと連続する地形は、半世紀ほど前までは東京湾沿いの各地に見られたが、近年の埋め立てやしゅんせつによりその大半が消滅した。
 小櫃川河口干潟は、1kmで1.5m程度といわれる緩やかな勾配であるにもかかわらず、ほとんど冠水することのない陸地から、潮汐の干満により空気中への干出と海水中への水没を繰り返す湿地や干潟、さらに常時海面下の浅瀬へと至る。陸から海、淡水から海水への移行地帯での環境勾配は大きく、さらに潮位や水の残り具合、底質等により、底生動物がそれぞれ固有の生息空間に棲み分けている。その実態が、的確な解説と目前で採取した観察対象の提示によって、非専門分野からの参加者にとってもよく理解できた。
 午後2時、「与兵衛」に戻り遅めの昼食をとる間、観察用水槽で行われた底生動物等による汚濁海水の浄化実験は、理論的理解に勝るとも劣らない、まさに「実証試験」そのものであった。
(レポーター:総合科学(株)小角 浩)




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