活動報告

セミナー・レポートサマリー 122


■第1回野外セミナー・レポート 平成21年7月23日・24日
尾瀬自然観察研修会

木道を歩く参加者
木道を歩く参加者
池塘と浮島
池塘と浮島
シカによる食害
シカによる食害

●第1日目

 今回の研修会のメインである尾瀬国立公園は、平成19年8月に日光国立公園から分離独立し、全国で29番目に誕生した国立公園である。
 午前11時3分に上毛高原駅に到着し、そこからバスに乗り込み鳩待峠を目指す。途中、天然記念物に指定されている「吹割の滝」を見学した。片品川にあるこの滝は、新第三紀中新世前期の吹割熔結凝灰岩層という大規模な火砕流が冷固した岩盤が浸食されてできたものである。この固い岩盤が水の力により、長い年月をかけて蛇行し滝を形成したことを想像すると、自然の力の凄さにただただ驚くばかりである。
 鳩待峠に到着し昼食を取った後は、講師の総合科学(株)小角浩氏、八千代エンジニヤリング(株)安田達行氏をリーダーとし、2班に分かれての行動となった。鳩待峠を下り尾瀬ヶ原を目指す途中、周りにはダケカンバ、ブナの樹木が生い茂り、普段見慣れぬ植生に気持ちが高揚していった。
 山の鼻ビジターセンターを抜け周りの樹木が切れると、そこには広大な湿原が広がっていた。ついに尾瀬ヶ原に到着である。湿原に入るとトキソウ、ミズチドリなどの可憐で小さな花々が各所に点在し、赤い絨毯のように広がるモウセンゴケ、ヒツジグサが咲く池塘、ニッコウキスゲの花畑など、尾瀬ヶ原特有の自然を十分に堪能できた。
 宿泊先の東電小屋に到着し、夕食の後、講師による国立公園の定義、公園計画、国立公園選定要領等の講義を拝聴した。国立公園には、日本のすぐれた自然風景地を保護するとともに、国民の保健・休養・教化に資することを目的としていることを改めて学び、後世にこの豊かな自然を残し、人と自然との共生のうえで発展することの重要性を感じることができた。
(レポーター:日本工営(株) 東 尚之)

●第2日目

 2日目はあいにくの雨。朝食後、東電小屋の管理人より、小屋が行っている環境への取り組みについて説明をいただいた。年間数十万人にものぼるハイカーによる雑排水を、自然の川に劣らない水質にまで浄化する高機能の浄化槽を設置し、環境に負荷をかけない太陽光発電を一部導入しているとのこと。尾瀬の美しい景観を損なわぬよう、目立つ屋根には発電パネルを設置しないなど細かい部分にまで配慮されている点が印象的だった。
 その後、見晴→竜宮十字路→山の鼻→鳩待峠の順に、木道に沿って歩く。広大な湿原は、風に溶けていくような白いワタスゲの穂や、わずか数cmの高低差による微環境を棲み分けるスゲ類、一面緑色の湿原に映えるオレンジ色のニッコウキスゲ、豊かな水を湛える池塘に浮かぶ愛らしいオゼバイカモの花、肥沃な土壌を運ぶ川に沿って分布する拠水林など、美しい自然に彩られていた。
 一見、尾瀬は遥か昔からこの姿をとどめていたかに見える。しかし、木道が未設置だった昭和30年代には、多くのハイカー達の踏みつけによって一部が荒廃し、現在もその植生復元作業が行われているとのこと。また、湿原の所々に結実していない花や、植物がなく泥炭層がむき出しになっている箇所が散見されるが、これらは近年増えつつあるニホンジカによる食害であるという。美しい尾瀬の自然は、木道の設置、冬期の山小屋の管理など東京電力や尾瀬林業、環境省を始めとする多くの人のたゆまぬ努力と協力によって維持されていることを忘れてはならないと感じた。
 今回の野外セミナーでは、お二人の講師に尾瀬の成り立ちから植生まで、長年の経験に裏打ちされた広い視点から解説をいただきながら、尾瀬国立公園を体感することができ、とても豊かな時間を過ごすことができた。
(レポーター:(株)ポリテック・エイディディ 相澤 郁)



TOPに戻る