活動報告

セミナー・レポートサマリー 115

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■ 平成18年度 環境省主催 研修・レポート 平成19年2月1日・2日
平成18年度環境影響評価研修
環境影響評価におけるパブリック・コンサルテーション


●はじめに


 今年度の環境影響評価研修は、環境アセスメントの信頼性確保を目的として40歳以下の実務者を主対象に、昨年度同様『環境影響評価におけるパブリック・コンサルテーション』のテーマで実施され、2日間で7件の講義があった。
 講義の内容は、リスクコミュニケーション、パブリック・インボルブメント(PI)、ファシリテーション、NGOおよび市民の立場から見た環境アセスメント、開発援助の現場からの環境アセスメント、専門家とNPOとのパブリック・コミュニケーション、など幅広い範囲に及んだ。

「環境アセスメントにおけるコミュニケーションの意義」

関東学院大学法学部 助教授 織 朱實

 リスクコミュニケーションについての講義で、ボードを使用しての熱弁であった。リスクコミュニケーションとは、「リスクに関する情報や意見を交換する相互作用プロセス」のことで、その目的は「利害関係者の理解と信頼のレベルを向上して対立の解消を図る」ことにあり、「相手を説得するためのものではない」ことを強調された。
 ステークホルダーの信頼のレベルを向上するためには、早期の段階から市民が意思決定プロセスに参加することが重要で、このような方法は時間がかかり必ずしも合意や理解に至るものではないが、一旦リスクにさらされる人々との信頼関係が構築されれば、その結果を理解しやすく、また受け入れやすくなって、実行可能性が高くなるという効果が得られるとの話であった。

「事業構想段階における市民参加」

東京理科大学理工学部 助教授 寺部慎太郎

 PI(パブリック・インボルブメント)とは、「事業の計画決定プロセスに市民を巻き込む」ことであり、「PIの本質はマーケティングにある」として、マーケティング理論に沿ってPIの意義、これまでの状況、PI手法、課題等について講義された。
 PIは、単なる合意形成の一部としてではなく、市民に売り込むマーケティング活動として捉え、積極的な働きかけを行うべきであり、計画づくりをサポートするコンサルタントは広告代理店の機能を持つべきである。米国ではPIプロセスを設計し、会議等を進行するPIの専門家が活躍しているが、わが国はまだPIの導入期、全国展開期を経て専門家のトレーニング期の段階にあり、トレーニングコースを開催して専門家を育成すべきであるとの話であった。
 また、PIの効果は所要時間やコストの短縮ではなく、関係改善や協調体制づくりに効果があるのであり、事前の周知徹底こそが反発を防止する手立てであると論じられた。

「ファシリテーションの意義と手法」

(財)計量計画研究所都市政策研究室長 矢嶋宏光

 講義は、公共事業における対話スキルとしてのファシリテーションの意義から、対立する意見への対処の考え方、導入の前提条件、ファシリテーション手法にまで及んだ。
 ファシリテーションとは、会議を納得的で効率的に行うための進め方のスキルのことであり、賛成・反対で意見が割れる対立的な局面では特に威力を発揮する。ファシリテーターは、主張された意見の裏に潜む理由を引き出し、これまで無視されていた要求を計画に反映するようにしなければならないと力説された。
 ファシリテーターは、サッカーの審判のようにどの参加者にも公平で、会議のプロセスを管理しつつも内容に関する議論には立ち入らず、立場の裏に潜む利害・関心(インタレスト)を探り出し、建設的な結果が得られるよう議論を導いていく。発言者の真の意図を探り出す対話スキルを駆使して建設的な議論に導く対話の再構築こそがファシリテーターの重要な役割であると強調された。

「NGOから見た環境アセスメントの課題」

(財)日本自然保護協会保護・研究部 研究担当専門部長 開発法子

 泡瀬干潟埋立事業の環境アセスメント(閣議アセス)を事例として、事後調査段階で注目すべき種群が多く発見されたこと、環境保全の代償措置が検討プロセスを踏んでいないことをあげて、NGOの立場から見た環境アセスメントの課題を指摘された。また、「人と自然との豊かな触れ合い」に関しては、調査および評価の手法が確立されていないことから、日本自然保護協会が実施している「市民によるふれあい調査」、「市民による里やまにおけるふれあい活動の実態調査」を例にあげて、地域住民、市民とのコミュニケーションを十分に図って情報を汲み上げることが重要であると論じられた。

「市民の立場から見た環境アセスメントの課題」

NPO地域づくり工房 代表理事 傘木宏夫

 NPOとしての自らの活動経験を交えて、市民活動の立場からみたアセスの課題、環境コミュニケーションとそれを促すファシリテーターの役割などについて講義された。
 複雑な利害関係がからむ地域の諸課題を協働して解決していくためには、適切なコミュニケーションが必要であるが、事業者、NPOともにそれを避けている傾向があると指摘したうえで、ファシリテーターとしての自らの経験を踏まえ、コミュニケーションを促す役割を担うファシリテーターの育成が必要であり、ファシリテーターに求められる資質およびワークショップのあり方についても話が及んだ。
 環境アセスメントにおいては、地域住民にしか分からない情報に価値があり、地域情報を引き出す手段としてコミュニケーションの工夫が必要であると指摘された。今後のアセスメントに期待することとして、1) 「参加型アセス」の推進、2) 小規模開発でのアセスの振興、3) SEAこそ参加型での論点整理、の3点をあげられた。

「途上国の環境アセスメントにおけるパブリック・コンサルテーション〜開発援助の現場から〜」

(独)国際協力機構国際協力総合研修所 国際協力専門員 田中研一

 JICAやJBICが実施している開発援助に際しての環境社会配慮の特性、ステークホルダー協議などに関して、事例を交えて講義された。
 JICAでは、2004年4月に環境配慮ガイドラインから環境社会配慮ガイドラインへの見直し改定が行われ、その中で、環境社会配慮とは「大気、水、土壌への影響、生態系および生物相等の自然への影響、非自発的移転、先住民族等の人権の尊重その他の社会への影響に配慮すること」と定義しており、環境社会配慮のプロセスとして、情報の公開、現地ステークホルダーとの協議、を不可欠なものとして重視しているとの話であった。

「専門家から見た住民、住民から見た専門家」

(独)大学評価・学位授与機構 助教授 田中弥生

 「ここがおかしい技術者のコミュニケーション」のサブタイトルのもとに、ゲームの理論「囚人のジレンマ」を例に、技術者から見たNPO・NGOは「よく分からない存在」として映っているのではないか、との指摘があった。また、NPO・NGOが果たしている役割に関して、海外の開発援助を行う開発NGOのグローバル・ネットワークを通じた活動や政策提言により政府の政策に影響を与えている点、開発により影響を受ける住民やNPOの反対活動が政府や世界銀行を動かしている点、を例にあげて講義された。

●おわりに


 第一線で活躍されている多分野の講師陣が、さまざまな場面での住民等とのパブリック・コンサルテーションのあり方やスキル、その重要性等について、事例を交えて分かりやすく熱心に講義をされたのが非常に印象的であった。コミュニケーションをテーマとしたこのような研修は、環境アセスメントに携わる実務者にとって必要であるが、ふだん受講する機会も少ないことから目新しく映り、きわめて有意義で充実した2日間の研修であった。環境アセスメントに限らず、事業の構想・計画から実施計画段階、さらには事後の各段階において、地域住民などステークホルダーとのコミュニケーションのあり方やその重要性について、改めて考えさせられる講義内容であった。
(レポーター:(株)日建設計 池田英治)

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