活動報告

セミナー・レポートサマリー 114

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■第2回公開セミナー(中部支部共催)・レポート 平成18年11月28日
地球温暖化への愛知県の取り組みについて

講師:
愛知県環境部長 林 清比古
地球温暖化対策の動向 −国内対策と国際交渉−

講師:
環境省地球温暖化対策課 課長補佐 梅田一也

コスト削減が地球を救う −どこでも取り組める温暖化対策あれこれ−

講師:
名古屋大学大学院 教授 竹内恒夫

 本セミナーは、公開セミナーとして本部と中部支部の共催に加えてEPOC(環境パートナーシップ・CLUB)の後援をいただき、名古屋国際会議場で開催された。昨今の地球温暖化対策への関心の高さを象徴するかのごとく、地方自治体の皆さまをはじめ総勢100名を超える参加を得た。
 京都議定書の目標期間が近づいてきており、わが国の温室効果ガスの削減が、今どのように進められているのか、さらに今後どのように取り組んでいくのか、世界ではどのような削減対策がなされているのかなどについて、国、自治体、学識者それぞれの立場で講演をいただき、温暖化対策の研鑽を深めることを目的としたものである。当協会としても、今後さまざまな形で地球環境問題に取り組んでいくことが必要だと思われる。
 愛知県の林環境部長は、2005年1月に策定された「あいち地球温暖化防止戦略」に基づいて、自治体としての方針やその取り組み方を説明された。愛知県は県民、事業者、関係団体、行政等で連携・協働を図り、各種施策や普及啓蒙を推進している。その具体的な数値目標を設定した「あいちecoモデル」は、徐々に県民に浸透しており、活発な活動をされているという印象を持つことができた。そのなかで、当協会としては「省エネESCO作戦」におけるESCO事業、ESCOビジネスにかかわることで、地球温暖化対策に貢献できる一つの手段が見いだせたように思えた。
 環境省地球温暖化対策課の梅田課長補佐は国際的な枠組みについて京都議定書、京都メカニズムについて解説され、環境先進国家として世界をリードする役割を果たしていく決意を示された。質問の中で「地方(県)への削減目標を設定しないのか」との問いには、地方には法律的な縛りがないので、率先した取り組みを地域に求めるにとどまった。地域のさまざまな自然的、社会的、経済的な要因を抽出・解析する時間がないのかも知れない。
 最後に、名古屋大学竹内先生は経済学が専門であることから、「持続可能な開発」、「世代間の公平性」、「フィフティ・フィフティ」、「エコプロフィット」、「エコアクション21」について具体的な例を示して、講演された。講演のタイトルは、『コスト削減が地球を救う』という主題に加え、副題として「どこでも取り組める温暖化対策あれこれ」というものである。国の計画に盛り込まれた対策のうち、自動車や電気製品などのエネルギー効率基準などは達成できそうだが、それ以外は自治体の「普及啓発」に頼らざるを得ない。そこで、地域による以下の5つの構造改革を提唱された。
(1)
エネルギー供給構造の改革(地区コジェネ、生ごみガス化、クリーン電力)
(2)
廃棄物処理の改革(生ごみガス化、リサイクルエネルギー回収、熱供給)
(3)
交通体系の改革(放置自転車の共同利用、カーシェアリングなど)
(4)
事業場からの排出削減手段の改革(経済的インセンティブ)
(5)
住宅・建物の改革
 一人ひとりの意識が地球温暖化を防止する。次世代につけを廻さない行動が求められている。かけがえのない地球を大切にする心(教育・啓発)や発展途上国への温暖化防止対策の援助と指導(国際協力)などまだまだ不十分である。世界の国々・わが国・地方・国民が協働して目標を達成して行くことが望まれる。当協会の一員として地球温暖化防止の「普及啓発」に努めたい。
(レポーター:(株)環境科学研究所 渡辺敏紀)


■ 第2回セミナー・レポート 平成19年1月15日
市民参加による生きもの地図作りの意義と課題

講師:
平塚市博物館 館長 浜口哲一

 「生きもの地図」作りのルーツは、1970年代の「タンポポ調査」にまで遡るという。最初の試みから30年を経て、単なる在来種・外来種の問題から雑種の問題へと、核心に焦点を当てた「タンポポ調査」の功績は大きい。
 今回の講演は、平塚市博物館の「生きもの地図」作りと環境省の「身近な生きもの調査」の例を実務の立場からより具体的に解説したもので、市民参加による「生きもの地図」作りを企画したり、実際に経験した人ならばおそらく誰もが直面する精度の確保や活用方法等に関する課題について、明快な答えをいただいた。
 「生きもの地図」とは、対象生物の存在・不存在をポイントで示したものであり、特に不存在情報の重要性が強調される。また、定点調査としたことで経年変化を追うことができ、継続的なモニタリングを可能にした。たとえば、ミンミンゼミはもともと主に丘陵地に分布していたが、20年後の調査では平地(市街地)にも分布を広げていることが明らかとなった。また、“鳴く虫”の例では、草地を必要とするマツムシと生涯を木の上で過ごすカネタタキとでは分布が異なることや、対象とする生物の分布に植生や地形、土地利用等の他の情報を重ねることで分布要因を推察し、ひいては地域の環境を評価することが可能になる。
 市民参加型調査における精度確保の手法のひとつに情報の検証可能な形での蓄積がある。たとえば、セミの抜け殻や服につく実、ドングリ、タンポポの種子等の物証を報告とともに送ってもらうことで飛躍的に改善する。これによって明確になる対象種の分布特性や、経年変化の“質の高さ”には正直驚かされる。ここ数年、地球温暖化現象も実感レベルになってきたのではと思われるなか、環境が今後どう変化していくのだろうかとの“不安”をモニターしていく一手法にもなりうるのではないか。やはり、「身近な生きもの調査」のような全国規模でのとりまとめが必要だと感じる。
(レポーター:(株)パスコ 早坂竜児)


■ 第2回セミナー・レポート 平成19年1月15日
自然再生事業における住民参加 −釧路湿原の事例を中心に−

講師:
北海道大学大学院農学研究院森林生態系管理学研究室
教授 中村太士


 本講演では、釧路湿原自然再生協議会のメンバーとして湿原再生事業に取り組んでおられる中村先生が、釧路湿原の現状と再生事業が抱える問題を、円山川、知床などの他事例と比較しながら紹介し、自然再生事業が成果をあげるためにクリアすべき課題や、その課題攻略のために必要な施策などを、ご自身の経験をもとに紹介された。
 「新・生物多様性国家戦略」では、人為的活動による自然の破壊を第一の危機としており、釧路湿原における危機はこの第一の危機にあたる。第一の危機は、保護か開発かという二極対立を生み、地域住民は自ずと加害者的立場に立たされる。協議会メンバーは120人にものぼるが、地域住民の参加は少なく、地元の人間の日常となっていない再生事業は、目覚しい成果をあげることができずにいる。
 「何をして自然とするか」は人それぞれで、本州の人間にとっては、緑豊かな北海道は現状のままでも十分自然に溢れて見え、多額の税金を投入してまで、より原始の姿に近づける必要があるのかという議論も生ずる。
 「要は価値観の違いなのです。」と中村先生は繰り返した。「事業の社会・経済的健全性と生態的健全性をいかに融合させるか。」というのはつまり、事業推進者と地域住民の間の価値観のすりあわせであり、それこそが自然再生事業成功の鍵というわけだ。
 周囲の自然にどんな変化が訪れているか、誰が見ても一目で分かるよう、地図や写真による情報を作成し、それらを地域住民と共有する。それにより関係者すべてが共通の認識を持ち、その上で事業の進むべき道を選択していく。まずは意思決定の明確なルールづくりが必要だという。
 事業が抱える問題は複雑で道のりは険しいが、「とにかく一歩踏み出す」という中村先生の熱意に触れ、そう遠くない将来、より原始の姿に近い壮大な釧路湿原を見ることが可能なのではないかと期待を持つことができた。
(レポーター:(株)大林組 西村絵里)

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