活動報告

セミナー・レポートサマリー 110

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■ 第3回セミナー・レポート 平成17年12月20日
希少猛禽類の聴覚特性と建設事業による影響予測


事業影響予測における定量化の考え方
―特に猛禽類への騒音影響について―


講師:中央農業総合研究センター 耕地環境部鳥獣害研究室長 百瀬 浩

建設事業影響予測評価システムの現場での活用

講師:日本工営(株)首都圏事業部環境部 課長 松永忠久

 猛禽類は生態系の上位に位置するため、地域の生物多様性の指標として利用することが可能である。しかし、今までの環境アセスメントにおける生態系の評価では、ほとんどが定性予測にとどまっているとの説明があった。
 本報告は、猛禽類の聴覚特性を調査したのち、その結果を騒音予測プログラムにも盛り込んだものである。
 国土交通省国土技術政策総合研究所では、猛禽類のうちオオタカとサシバに注目し、5年間にわたり行動圏の調査を行った。その結果、オオタカは、住居の近郊、台地、平地を行動圏とし、サシバは台地のほか、山間部にもみられるとのことであった。次に、実験室でオオタカのオスとメスを飼育し、音に対し正しく反応した場合にのみ餌が出てくるという実験をした結果、オオタカは2kHzをピークとする聴覚特性を有することが確認できた。
 この結果に基づき、「国総研版騒音・振動シミュレーションソフト」(GISと連携も可)を用いて建設作業騒音予測(ASJ CN-Model2002ベース)を行う場合、希少猛禽類への感覚補正を盛り込んだ予測が可能となった。このソフトの問題点は、希少猛禽類としてオオタカの聴覚特性しか考慮していないこと、またあくまでも聴覚特性の考慮のみで、音に対する忌避行動の閾値を盛り込んでいないことがあげられる。この点が改善されなければ、実際に環境アセスメントの手法として採用するのは難しいと思われる。
 生態系等の評価では、工事中の騒音の影響、工事による生息地等の改変、施設の存在等のいずれを評価するのか、環境アセスメントの実務者ではなかなか判断が難しいというのが実情である。定量的な予測手法が確立することは望ましいことであるが、実務者として常に何のために何を評価するかという視点で物事をとらえていけるようにしたい。
(レポーター:(株)東京久栄 中 雅史)


■ 第3回セミナー・レポート 平成17年12月20日
振動の評価の考え方について

講師:工学院大学工学部建築学科 教授 塩田正純

 本セミナーでは、振動の評価の考え方について、現在の日本の状況や国際的な動向を踏まえながら、とくに振動規制の変遷、振動・騒音問題の違い、新たな振動評価の考え方、国内外の振動評価法等について講演していただいた。
 これまで国内では、騒音と同じような考え方で振動の規制、評価を行ってきたが、振動と騒音はまったく違うことが分かってきた。たとえば、騒音は聞こえる範囲内での大きさによって判断されるが、振動は振動を感じた場合に問題となり、ときには恐怖を覚えることもある。騒音は、内部騒音が外部騒音より低下することが多いが、振動は外部より内部の方が増幅して大きくなることがある。また、現状では、環境振動の定義そのものが学会によって相違がみられ、ライフスタイルの変化や市街化の拡大、振動伝搬経路の複雑さなどにより、振動規制法の対象とならない発生源の増加や、苦情件数(とくに解体工事)の増加がみられている。一方、音環境と同じように、心地良い振動(例:電車内の振動)の評価方法の検討なども行われている。
 ヨーロッパの国々では、住宅内での人体に対する振動による規制を行っている。また、振動の評価は、ISOの基本的な考え方に基づき、振動加速度振幅(m/s2)、等価振動加速度レベル(dB)、等価振動レベル(dB)、補正速度レベル(dB)などによる評価や、暴露時間との関係などにより行われている。
 これらを踏まえ、現在、環境省では振動評価指標のあり方を考える委員会を設立し、住宅内での振動レベル、振動の受忍限度の把握、過去のデータの活用方法の検討、国外やISOの測定方法等との比較を行い、法律による規制も視野に入れた検討を行っている。国際的には、今後は人体近くの振動評価を行う方向で議論されているが、まだ多くの解決すべき課題が残されているとのことである。今後も振動の評価手法の動向に注目していかなければならないと感じた。
(レポーター:アジア航測(株) 細川岳洋)


■ 第2回野外セミナー・レポート 平成17年12月16日
「小網代(こあじろ)の森のランドスケープ」体感ツアー

 「小網代の森」は、三浦半島の南端西側に位置し、関東地方では唯一、源流部から海岸まで山林、湿地、干潟が一体となり、自然がそのまま残された流域である。当該地域は、平成17年9月に、首都圏近郊緑地保全法による近郊緑地保全区域として、その中の70haが指定された。
 最初に、流域全体を見渡せる地点において、講師の岸先生から、小網代の森のランドスケープとその概要についてご説明いただいた。続いて3.2kmの遊歩道を歩き、崩落性地盤とハゼノキ等の植生遷移の関係、アライグマ等の外来種と周辺環境の管理等について説明を受け、小網代の森における土地と人との関係の歴史や登記等の法整備とNPO活動における問題点について教えていただいた。また、小網代の森を代表するアカテガニの放仔とNPO活動のカニパトとハビタットの整備について学んだ昼食時に、オ オタカ等を観察することができたのは非常に幸運であった。
このように、ランドスケープにはさまざまな自然環境の要素が含まれ、野生生物の棲み場となり、生物多様性に満ちている。小網代の森の流域は、雨水等を海へ流すだけではなく、アカテガニを代表とする生物の海と森との往来が、海と陸との有機物循環を生み出す一つの単位となっている。また、隣接する湾の埋め立て工事をみて、開発行為の是非に関するさらなる検証の必要性を痛感し、現在の環境アセスメントの範囲で可能な保全措置の検討の重要性について考えさせられた。
 最後に訪れた地点から見た小網代の森は、宝物がたくさん詰まった小さな宝石箱のように思えた。
(レポーター:(株)オオバ 三島成久)


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