活動報告

セミナー・レポートサマリー 100

■第1回 定例セミナー・レポート 平成15年6月20日
「地上波デジタル放送と環境アセスメント」

講師:
日本放送協会営業局受信技術センター 副部長 三品 治

 現行の地上アナログ放送が平成23年7月に終了予定であり、地上デジタル放送の一部開始を本年12月に控えている現在、本セミナーにおいて、地上デジタル放送の特質と新サービスの内容、環境アセスメントに関連するデジタル波の障害予測の実際および実験例、障害の留意事項ほか、時機を得た内容の講演を聞くことができた。地上デジタル放送の新サービスについては、高画質高音質のハイビジョンを中心とし、携帯電話向けサービス、スポーツ中継延長時などの臨時マルチ編成、同一番組のマルチチャンネル、台風・災害情報や地域情報のデータ放送が挙げられた。これらはテレビジョン放送の可能性を大きく広げるものであり、その充実が期待される。
 デジタル波の障害予測の実際では、机上検討→事前調査→障害予測と、順を追って解説された。各所で登場する専門用語やグラフおよび計算式はここでは割愛するが、調査に用いる受信特性測定器が試作段階であったり、普及するにつれて向上するであろう受信機の性能によって障害予測結果が変化するといった不確定要素が存在するため、ツールやパラメータの確定が課題であると感じた。また、実験等によるとアナログに比べ障害は狭い範囲となるが、超高層建築物によるしゃへい障害は遠方で発生する特徴があるという。障害の留意事項は上記のほかに次のようなものが挙げられた。(1)アナログでは、受信状況が劣化すると画質は徐々に劣化するのに対し、デジタルでは訂正機能があり、その限界までは画質劣化はなく、限界を超えると急激に画質劣化する。(2)アナログでは画質の程度から障害の原因を推測できたが、デジタルではそれが難しそうである。
 最後に、7月にNHKから解説書「建造物障害予測技術〜地上デジタル放送〜」が出版されるので、予測技術を理解するための一助となるであろう。
(レポーター:サンコー環境調査センター(株)太田 茂)

■第1回 定例セミナー・レポート 平成15年6月20日
「東京都におけるヒートアイランドへの取り組み」

講師:
東京都環境局都市地球環境部計画調整課 課務担当係長 青山一彦

 よく知られているように、“都心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象”をヒートアイランド現象と呼び、10年ほど前から問題になっている。東京都におけるヒートアイランドの現状と原因については、23区の3地点に設けられたアメダス観測所から得られたデータに基づき解析された例もあるが、地域的な特異性の影響もあり、その原因については十分に把握されていない。そこで東京都では、昨年、区部を中心に100カ所に自動温湿度計、20カ所に気象計を設置するなど、調査地点を大幅に増加して高密度観測によるヒートアイランド観測網(METROS)の整備を行い、より詳細なデータの取得、解析を進めている。
 また、東京都では平成14年1月に「東京都環境基本計画」を策定し、ヒートアイランド対策を東京都の施策として明確に位置づけるとともに、同年11月には「都市と地球の温暖化阻止に関する基本方針」を策定して、CO2排出量削減や省エネ等の対策を推進している。さらに平成15年3月には、「ヒートアイランド対策取組方針」を定めて効果的なヒートアイランド対策を進めていくための方向性をとりまとめた。これらの対策の基本的な考え方は、(1)環境に配慮した都市づくり、(2)総合的な施策の展開、(3)最新の研究成果を取り込んだ施策の展開−で、東京都の率先行動や民間との協働、施策に直結する調査研究の推進を中心としたものである。
(www.kankyo.metro.tokyo.jp/ 参照)
 都議会議事堂の屋上緑化プロジェクトや、東京体育館前広場における芝および保水性舗装等のヒートアイランド対策事例が提示され、東京都の率先行動が具体的に示された。やっと昨年から東京都が施策として取り組みだしたといった感があるが、都市と地球の温暖化阻止のためには、国や自治体の取り組みに任せるだけではなく、官民協調して事業を実施できるような体制やシステムの構築のほかに、われわれ個々人の意識変革も求められているのではないかと思われた。
(レポーター:(株)日本海洋生物研究所 大屋二三)

■第1回 技術セミナー・レポート 平成15年8月29日
「河川事業の計画段階における環境影響の分析方法に関する考え方」

講師:
独立行政法人土木研究所水循環研究グループ 上席研究員 尾澤卓思

 河川環境の整備と保全は近年ますます重要となっており、河川整備計画の策定において計画の早期段階に環境面に配慮することが必要とされてきた。このなかで平成14年12月に国土交通省河川局から「河川事業の計画段階における環境影響の分析方法に関する考え方」の提言が出された。本講演では、この提言に関して、基本的考え方、実施方法についての説明が行われた。
 河川事業の計画段階における環境影響の分析には、計画段階において環境への配慮を意思決定に統合する仕組み(戦略的環境アセスメント)の導入が検討された。自由度の高いこの段階で環境問題を論議することは、将来事業段階で環境影響評価を実施するときに焦点が絞れる利点がある。その際の重要な視点は、明確な目標の設定、複数案の適切な評価と相互の比較、不確実性の認識などである。一方、この段階での検討はデータの質、量に制約があり、複数案を的確に比較することは、実際大変な作業である。今回の説明では、この点に関して、考え方とともに検討の進め方について具体例をあげながらの解説があり、目標の設定、達成度の検討、報告書の作成と公表など、そのイメージがつかみやすく理解の助けになった。
 また、これまで河川管理で蓄積されていた測量データが、環境の目標設定に役立つ指標として活用可能であることも示された。たとえば、河川の測量調査データを物理的化学的環境データとして活用し、その物理指標から生物の生息・生育環境の変化を予測、分析することにより生態系などへの影響予測に用いることが可能となる。その際、注意すべきはデータのスケールの違いであるが、この対応に関して、今後おのおのの分野の連携、すなわちここでは土木工学と生態学の連携が必要であることが示された。このことは、今後計画段階で環境影響の分析を行う際の、情報の不足に対する重要な手段であることを認識した。
講演録報告書(会員のみ) >>>
(レポーター:日本エヌ・ユー・エス(株) 堀内和司)

■第1回 技術セミナー・レポート 平成15年8月29日
「河川生態系の・調査・予測・評価技術について」

講師:
東京農工大学農学部地域生態システム学科 助教授 星野義延

 環境影響評価法が施行されて以来、「生態系」の調査・予測・評価の手法は未だ過渡期にあると思う。漠とした「生態系」をどのようにモデル化して記載するか。上位性・典型性・特殊性の視点から対象種を絞ったり、動植物調査に基づく生物相から単純化したフードウェッブを書いてみたり…。しかし、これらはしばしば教科書的な一般論にとどまってしまう。生物種の生態に関する知見が十分に蓄積されていない面もあるが、シマドジョウの事例紹介にもあったように、群集の構成メンバーの相違(アユが入るか入らないか)で採餌対象が変化するなどといったことはほとんど考慮できていない。
 今回のセミナーでは、河川生態系を議論するうえで大変貴重な考え方と事例をご紹介いただいた。とくに河川という環境が、洪水によるかく乱により生態系の成立が支配されていること、さまざまな遷移段階の群集がモザイク状に存在することなどの特性をもつことは、河川の環境影響評価を行ううえで重要であると改めて知った。生態系を議論するとき、結果として成立している植生や動物相ばかりを論じても不十分であり、むしろその成立要因として、物理的環境すなわち、水循環、砕屑物供給作用(地形形成)、物質(溶存・浮遊)運搬作用(種子・養分・餌量供給)を理解する必要がある。
 河川生態系の保全に関する評価の視点として示された3点、(1)地域性の重視と生物多様性(その場所にあるものをいかに残すか)、(2)更新と更生の場(どうしてその種がその場で生きつづけているのか)、(3)特定立地の潜在的価値(たとえば、マント群落になっているところが増水時には魚の避難場所になっている、など)は、河川環境のみならず他の環境の生態系保全を検討するうえでも重要な視点であり、具体的な作業のなかで試みたい。
 一方、根本的な問題として、防災を重視した河川整備により河川本来の“かく乱”の特性が失われていることも、検討の余地のある重要な課題なのだと感じた。
講演録報告書(会員のみ) >>>
(レポーター:(株)パスコ 早坂竜児)

■第1回 野外セミナー・レポート 平成15年7月15・16日
「栂池高山湿原性植物の観察と自然地管理・実施事例研修会」

講師:
長野県自然保護研究所 総括研究員 糸賀 黎
長野県自然保護研究所 研 究 員 尾関雅章


【第1日目】
 7月15・16日の2日間、本年度の野外セミナーが実施された。初日は午後12時、JR長野駅に集合し、最初の目的地である長野県自然保護研究所へ向かった。車中で、同研究所総括研究員の糸賀先生より、浅川周辺の地形や植生、景観などに配慮がなされた真光寺ループ橋に関する説明などがあった。
 同研究所では、研究所の概要と研究プロジェクト(http://www.nacri.pref.nagano.jp参照)について説明を受けた後、書庫・相談室や一般公開されていない各研究室・標本室等を見学した。研究テーマや施設から、研究所と地域との連携が取られていることを実感した。アセスメント関係の調査に標本が保存されていないケースが多く見受けられるが、是非保存対応していただきたいとのご意見をいただいた。
 続いて栂池高原駅へ移動し、ゴンドラ、ロープウェイを乗り継ぎ、低地からオオシラビソ等の亜高山帯植物へと植生の変化を感じながら栂池自然園近くの宿泊場所に到着した。宿の周辺では、自然園のし尿回収のためのヘリコプターがあることに驚きを感じる一方、ミヤマキンポウゲやエンレイソウなどの高山植物が目を楽しませてくれた。
 夕食後には、同研究所の尾関先生と糸賀先生から講話があった。尾関先生からは、栂池と天狗原の植生の変化について研究経過が説明された。そのなかで、「湿原は植生を回復させるだけではなく、地盤の回復が大切となる。これには、多くの人手が必要であり、ボランティア等の力も必要になってくる」というお話があり、今後の環境保全・保護には、地域住民の力が大切になってくることを感じた。また、糸賀先生は里地・里山へのアプローチ方法と課題について話された。環境把握には時間軸と空間軸から考えて、地域環境・風土、開発の動向と現状を総合的に相互に捉えていく必要があることなど、とても興味深い内容であった。
 長野県の生態系を中心に研究する施設を見学し、関東とは違った景観を見ることができて大変有意義であった。
(レポーター:(株)オオバ 吉田元臣)

【第2日目】
 野外研修の2日目は、栂池自然園(http://www.vill.otari.nagano.jp参照)の観察を行った。高層湿原を初めて見学した私は、栂池自然園で見たこともない高原植物を観察できた喜びに加え、一面に広がる草原やその中に点在する地塘(湿原に点在している池)がある景観に目を奪われた。ここには素晴らしい自然が保全されている。
 栂池自然園の湿原は、高層湿原(地下水の供給を受けず雨水によって潤される湿原)に分類されている。これは栂池に一面に広がっているのではなく、泥炭層の厚い個所にのみ成立しているとのことであった。なお、土砂が泥炭層の上に流入する個所は、乾燥化が進みオニシモツケ等が繁茂する低層湿原の植生へ変化していた。
 このような現象は、人の立ち入りによる影響が一番大きいそうで、地塘の淵が崩され、水が流出し乾燥化している場所もみられた。人の立ち入りによる影響を受けた個所の回復は、植物の遷移に頼るしかなく、非常に時間を要するものであるとのことであった。
 これらの対応としては、多くの歳月を積み重ねて形成された泥炭を流失させないことが重要なので、人が地面をなるべく歩かないための木道の整備を一番の配慮事項にしているとのことであった。また、泥炭が流失した個所に別の場所から泥炭を運搬し、被覆させることも手段の一つとして考えているという。
 ボランティアである栂池自然園ガイドクラブの方々には、湿原に生育する植物や湿原をとりまく現状また保全について、多岐に及んで教えていただいた。各人がいろんな視点でこの湿原のことを考え、それぞれのスタイルで湿原の説明を行われていたことが興味深かった。このようなボランティアの存在は、湿原の保全・再生に取り組んでいくうえでは、必要不可欠なものであると思う。
 今回は、初夏の栂池自然園の姿を見学できたが、高層湿原の四季の移り変わりを、自分の目で眺めてみたいので、再訪したいと思う。
(レポーター:日本工営(株)柴田隆一)




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