活動報告

支部報告 97

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■北海道支部 第1回技術セミナー・レポート 平成14年7月31日
「サケは海からのおくりもの」

講師:北海道東海大学工学部海洋環境学科 教授 帰山雅秀

 本講演では、社会的背景を踏まえたうえで、シロザケを中心とする放流魚による野生魚への影響についてお話いただいた。
 高度成長期における経済発展にともない、当時の北海道の河川は有機排水により汚染され、また、治水を目的とした河川改修が、サケ科を中心とする淡水魚に大きな影響を与えてきた。そのような時代、荒廃した河川生態系の保護に大きな役割を果たしたのが、孵化場の研究者であった。彼らは数多くのフィールドデータと飼育実験を基に、人工孵化放流技術を確立していった。そのおかげで、とくに私の住む北海道では秋の産卵期に多くの河川でサケの遡上が確認され、橋の上などではサケを見るため多くの家族連れでにぎわっている。また、春先の河口付近で目を凝らして見ると、小さなサケの稚魚の群れがいくつも確認できる。あんなに小さな稚魚がわずか数年で70〜80cmにも成長することは本当に驚きである。大きなサケだけではなく稚魚の様子も観察されることをお勧めする。
 しかし、人工増殖は良いことばかりではない。すなわち、放流魚は養殖場や孵化場で十分な餌を与えられ、高密度に飼育され放流されることで、野生種よりも大型となり、他個体のなわばりに進入し摂餌行動をとる一方、免疫応答が弱く自然環境への適応が野生魚にくらべ劣るそうである。これまで、サケの生活史や生態を学ぶことで人工増殖技術の効率は著しく向上したものの、給餌飼育による放流、一括大量捕獲を目的とした河口付近での捕獲にともない、河川は一時的な通路と化し、河川環境保全の歯止めとしての役割が失われていった。
 こうした状況を踏まえ、近年の人工孵化放流事業では地域集団の遺伝的特性を把握し、固有性と多様性を守りながら、放流数の適切な制限を実施しているとのことである。
 生態系への配慮のためにも、できるだけ野生サケの回復を目指し、自然繁殖できる河川環境の回復を第一に進めていく必要がある。このためには水質改善はもとより、遡上を妨げる河川構造物の改善、密漁の防止など地域住民との協力が不可欠である。今回の講演を聴いて、環境に携わる技術者として、河川環境保全に取り組んで行く必要性を再認識させられた。
(レポーター:(株)ドーコン 中山 亮)

■北海道支部 野外セミナー・レポート 平成14年9月5・6日
「釧路湿原の自然再生事業と阿寒町(財)前田一歩園財団の自然保護の見学」

 北海道支部では、ラムサール条約の登録湿地であり、自然再生事業のモデルケースとして注目されている釧路湿原や、豊かな自然あふれる阿寒国立公園を見学した。平成14年9月5・6日の両日、約30名が参加した。

◆1日目
 第1日目は環境省野生生物保護センターにおいて、釧路湿原の環境保全に熱心に取り組んでおられる(財)北海道環境財団の辻井達一先生に、釧路湿原の変遷や自然再生事業に向けた取り組みなどについてご講演いただいた。
 辻井先生は釧路湿原の河川環境保全に関する検討委員会の委員長も務められており、湿原のあるべき姿、具体的な施策について、これまでの議論の経緯にも触れながら大変わかりやすく説明していただいた。釧路湿原では、経済活動の拡大にともない湿原面積が著しく減少し、植生もヨシ−スゲ群落から乾燥に強いハンノキ林に変化しているそうである。これらの環境変化は現在も急速に進んでおり、土地利用が急速に展開する以前の水準に戻すことを目標に、水辺林の整備や地下水制御による湿地の再生など、流域の視点からみた総合的な対策が急務であることを力説しておられた。
 講演会場であった野生生物保護センターでは、釧路湿原に関するさまざまな情報が展示されているが、さらに、現在行われている取り組み状況や研究結果などをリアルタイムに公開し、環境教育の場として一層活用してもらいたいと感じた。
 次に、国の特別天然記念物「マリモ」で有名な阿寒湖畔にある「前田一歩園財団」(http://www.ippoen.or.jp/)を見学した。当財団は、昭和58年に設立され、自然保護に関する学術調査研究、普及啓発、人材育成などを行っている機関である。
 前田一歩園財団の所有地は、阿寒湖を取り囲むように広がる約3,900haにも及び、そのほとんどが森林で占められており、また全域が阿寒国立公園特別地域として指定され、鳥獣保護区と保安林の重複指定を受けている地域でもある。
 ここでは、理事長のご好意により園内を案内していただき、樹木の変遷、伐採計画など森林管理の方針について、興味深いお話を聞くことができた。また、動物との共存という観点から、とくにエゾシカが樹皮を食べることによる樹木被害が深刻で、餌付けによる管理もやむを得ないとのことであった。
 野生動物への餌付けには賛否両論あると考えられるが、樹木被害防止には相当の効果をあげているそうである。
 1日目の予定の視察が終了し、阿寒湖畔のホテルに到着後、懇親会が開催された。日頃会う機会のあまりない、同業の技術者が議論を交わすことのできる貴重な場であった。
 懇親会終了後、私は同僚とともに阿寒湖畔の散策に出かけた。湖畔周辺のおみやげ屋では、皆さんご存知のサケをくわえた木彫りのクマのほか、最近はシマフクロウが人気だとか!また、大木をくりぬいた2m以上もあるクマが数百万円で販売されていたが、とても私の家には飾る場所がありません。
◆2日目
 2日目は湿原内にある雪裡樋門地区を見学した。ここは湛水によって地下水位を上昇させ湿原植生への影響について実験を行っている地区である。スケールの大きい実験地であり、湿原植生の制御手法の確立に大いに貢献するものとして期待される。
 当日はあいにくの雨であったが、車中で水質や植物、地質などさまざまな分野を専門とする参加者による議論が白熱し、一層の技術向上につながったものと考える。
(レポーター:(株)ドーコン 中山 亮)

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