支部報告 128

■北海道支部 技術セミナー・レポート 平成22年6月23日
近年道内で生息域を広げている特定外来生物アライグマについて知る
講師:
酪農学園大学 教授 浅川満彦

 近年道内では特定外来種であるアライグマが生息域を広げ、農業被害や生態系へ影響を及ぼしている。今回の野外セミナーでは、酪農学園大学の浅川先生からアライグマに関する最新の知見を学んだ。

(1)浅川先生講演


「アライグマと感染症〜外来種病原体モニタリング研究における今後の課題」
(1) 酪農学園大学野生動物医学センター(WAMC)・施設と研究概要
(2)
アライグマの分布・生態とわが国に外来種化したことによる諸問題
(3) アライグマが感染に関わる病原体・寄生虫とそのモニタリング〜現状と意義
 酪農学園大学野生動物医学センター(WAMC)とは、医学、獣医学及び保全生態学の学際領域として振興した「保全医学」の拠点である。浅川先生はここを拠点とした寄生虫学の専門家であり、今回は外来種であるアライグマが分布を広げている中での問題点等を大変分かりやすくご講義いただいた。
 アライグマにはアライグマ蛔虫が寄生しており、この蛔虫が幼児やさまざまな家畜(イヌ、ネコなど)・家禽(ダチョウ)を死に至らしめる。アライグマ蛔虫は動物園等の飼育個体では確認されるが、約2,300個体の検査実績によると野生のアライグマからはアライグマ蛔虫は確認されていない。その理由は不明であるが、大変興味深いことである。また、アライグマはエキノコックスの中間宿主であるエゾヤチネズミを捕食するが、エキノコックスの感染源となりうるのか解明されておらず、今後の研究成果が望まれている。

(2)野外観察

 野外観察は、WAMCにおけるアライグマの生体(大学に隣接する野幌森林公園(2,053ha)で捕獲された幼獣)を観察した。幼獣は大変かわいく、1977年にアライグマ「ラスカル」がテレビ放映されてから、ペットとして人気が急騰したこともうなずけた。しかし、成獣になると気性が荒く、手に負えなくなり、道内で放逐が相次いだ結果となった。
 次に、アライグマ、タヌキ、アナグマ、ハクビシンの標本を用いて、識別のポイントについて説明していただいた。また、寄生虫(エキノコックス)の標本、捕獲機材のデモンストレーションを見学した。
 さらに、併設された炭化プラントの見学を行った。炭化プラントは動物の死体を700〜800℃で炭化して、土壌改良剤等に再利用するためのものである。炭化プラントは独特のにおいが発生するため、設置にはそれなりの環境と設備が必要であると感じた。
 その後、野幌森林公園内の遊歩道の一部を約4.0kmにわたって踏査し、沢沿いに残るアライグマの痕跡(足跡)を実際に観察した。


(3)おわりに

 今回の野外セミナーは、宮崎県で口蹄疫が拡大している中で行われたこともあり、口蹄疫蔓延防止対策としての消毒等に大変気を使いながら行われた。われわれ現地で野生動物と関わる機会がある者は、正しい知識を持って、さまざまな疾病の感染防止を図り、「保全医学」という立場からも環境の保全対策を検討する必要があると認識を新たにした。
(レポーター:エヌエス環境(株) 長谷眞也)

■北海道支部 技術セミナー・レポート 平成22年7月13日
日本版ニュー・ディール政策とバイオマスエネルギー
講師:
北海道大学 名誉教授 松田從三


循環型社会を目指すわが国において、取り組みが強化されている温暖化対策のうち、日本版グリーン・ニューディール政策と北海道で大きな賦存量をもつバイオマスエネルギーについてご講演いただいた。松田名誉教授は、全国的にみてもバイオマスエネルギー研究の第一人者であり、今後の北海道及び日本の政策や方向性のあり方について解説された。
 まずは、日本版グリーン・ニューディール政策を進める意義と課題について、世界的にみてもエネルギー自給率が低いわが国において、再生可能エネルギー及び地元エネルギー資源の重要性について解説された。また、短期的効果と長期的効果のバランスを考慮した総合戦略を実施することが必要であるとのことであった。その中でも、北海道において重要な産業となっている農業の振興を促進し、環境の改善やエネルギー取得、なおかつ未利用資源の活用につながるバイオマス資源の導入意義は、特に重要であると解説された。現在、太陽光発電について促進導入の措置がとられているが、バイオマスプラントからのエネルギーについてもEU諸国のような優遇措置を設定し、更なる普及の拡大に努めることが重要とのことであった。
 地球温暖化対策における単一面での政策によって、短期的に得られる効果は重要であるが、長期的には課題になることが明確となる場合もあることから、短期的・長期的両面を勘案した政策や行動が必要だと再認識した。また、地球温暖化対策には地域エネルギーの活用が不可欠であり、北海道にはこれを実現するのに十分な賦存量がある。さらには、国内の食料自給率を支える北海道の農業を活性化させるため、バイオマス資源の活用を推進するため、われわれも微力ながら貢献できる立場にいることを感じた。
(レポーター:北電総合設計(株) 秋岡伸幸)

■北海道支部 技術セミナー・レポート 平成22年7月13日
国内クレジット制度(CO2国民排出量取引制度)
講師:
北電総合設計(株) エネルギー室長 篠原伸和


 2008年10月より、CO2の排出量取引の試行的実施として、「国内クレジット制度」がスタートした。
 この制度の概要及び北海道の現状と課題について、北電総合設計(株)の篠原室長からご講演をいただいた。
 国内クレジット制度は、中小企業や農林業、地方自治体等が大企業等から資金等提供を受け、協働で省エネ対策の推進や設備投資の圧縮・ランニングコストの低減を狙いとしている。
 この制度の特徴は、京都議定書目標達成計画に基づく、「政府全体の取り組み」であり、京都メカニズムクレジットを代替する機能を有するとともに、消費者と密接な関係のある業界においてもカーボンオフセットとしても利用できる機能を有することにある。
 また、中小企業・農林業や民生部門(サービス業)における排出削減を促進できる点、京都メカニズムクレジット購入に充てられていた資金を国内・地域の投資・削減に振り向ける点、大企業等のCSR活動の一環として国内クレジットを利用できることで環境投資への活動を促進する点としての意義がある。
 北海道内においては、現在40件超の申請が行われているが、クレジット活用の際のポイント、モニタリングや方法論の理解を深めることが必要であり、まだまだクレジット認証数は少なく、売り手は多いが買い手が少ない現状である。そのためマッチングのソフト支援機関が必要であり、加えて、普及に向けた活動も期待されるところである。
 今後プロジェクトが浸透し、'北海道らしさ'として北海道の特徴を活かした活動が期待される。今回のセミナーを通じ、われわれ技術者が制度についての理解をより一層深め、広く環境問題に取り組むための手助けになればと考える。
(レポーター:(株)エコニクス 外崎秀和)



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