活動報告

支部報告 116
<<< BACK
 

■関西支部 第1回技術セミナー・レポート 平成19年6月12日
「再生」をテーマとした見学・研修会

1) 京都市廃食用油燃料化施設
2) 京都市東部山間埋立処分地「音羽の杜」



 関西支部、今年度最初の技術セミナーは、「再生」をテーマとした見学・研修会として実施され、21名が参加した。見学・研修地は、京都市廃食用油燃料化施設と京都市東部山間埋立処分地「音羽の杜」の2箇所であった。

(1) 京都市廃食用油燃料化施設

 京都市廃食用油燃料化施設は、一般家庭、ホテル、食堂等の事業所から排出される使用済み食用油(廃食用油)を回収し、燃料として再資源化する施設である。再資源化された燃料は、軽油にかわる代替燃料として注目されており、京都市のごみ収集車や市バスにも使われている。
 この施設を見学し、施設を管理されている菅原氏のご説明を聞いて、以下の点が特に印象的であった。
1) 市民参加型の生きた環境教育になっている。
2) 再資源化燃料はCO2削減に大きく貢献(軽油に比べ7割削減)し、硫化酸化物や黒鉛も減少させている。
3) 再資源利用の循環型社会の構築を目指している。
4) 再資源化燃料に軽油が混ざると課税対象になる。
 地域における社会活動は、地域の活力の最も基本的な要因であり、人口減少・高齢化社会が問題になっている現在では積極的に取り組むべき項目である。京都市内では、月1回のボランティア活動として、小学校区単位において市民が廃食用油の回収に意欲的に取り組んでいる。これは生きた環境教育になっているほか、地域社会の活力向上にも貢献しており、とてもすばらしいと感じた。
 環境負荷が少ない点、再資源化燃料は課税されない。しかし、軽油が少しでも混ざると課税対象になるため、民間企業が使いづらくなっている点が残念である。一方、環境負荷が少ないため利用価値は非常に高いと考えられる。ごみ収集車や市バスの燃料だけに留まらず、今後ほかにも利用できるようなシステムの構築を期待する。
 京都市は、1997年に地球温暖化防止京都会議が開催され、温暖化防止や循環型社会の構築に意欲的に取り組んでいる都市である。京都市の取り組みをモデルとして全国展開していくことが重要な意味を持つと感じた。

(2) 京都市東部山間埋立処分地「音羽の杜」

 京都市東部山間埋立処分地「音羽の杜」は、山科音羽川上流の谷間に貯留構造物(埋立用ダム)を設置し、焼却残灰や不燃物を埋立処分している施設である。
 施設見学時に印象深く感じたのは以下の点であった。
1) 環境に配慮し、橋梁やトンネルを採用している。
2) 景観にも注意を払っており、京都市中心部から貯留構造物および埋立物が見えないように設計されている。
3) 埋立地盤には不織布や遮水シートを使っておらず、岩盤である地山の特性を活かしている。
4) 岩盤の亀裂やひび割れ部に雨水などが浸透するのを防ぐため、地山と埋立地盤の間に粘土層を設けている。
 山間部にあるこの施設は、埋立地まで5km程度の搬入路がある。この道路は「いろは坂」のようにくねくねと曲がっており、17の橋梁部と3つのトンネル部がある。これは周囲の環境になるべく影響を及ぼさないようにとの配慮によるものである。また、貯留構造物および埋立物が京都市中心部から見えないように設計されており、景観の面からも細心の注意を払っているようである。
 埋め立ての際には、岩盤である地山の特性を活かしている。また、岩盤の亀裂やひび割れに雨水などが浸透するのを防ぐため、地山と埋立地盤の間に粘土層を設けて遮水対策をし、山科音羽川の下流域へ影響を与えないよう最大限の配慮をしている。不織布や遮水シートは破断・劣化する可能性があるためこのような方法が採用されたという意見もあるが、周辺環境に配慮し、地山をできるだけ残しているのではないかと思われる。
 今回、環境問題に積極的に取り組む2施設を見学し、環境系の仕事に接する機会が少ない小職には大いに勉強になった。
(レポーター:応用地質(株) 岩下信一)


■北海道支部 第1回技術セミナー・レポート 平成19年6月22日
湿原泥炭地の形成モデル

講師:
(株)水工リサーチ 専務取締役 岡田 操

 湿原の重要性が認識され、その保全や修復が進められている。湿原の保全・修復を効果的に進めるには、湿原の成り立ち・でき方を考慮して行わねばならないが、その成り立ちについては分かりにくいことが多い。また、湿原そのもののでき方については定量化されていない。
 岡田氏は、自身で行う航空写真撮影と地上調査を積み重ねて、泥炭の成長・湿原のでき方をシミュレートし、定量化する研究成果の一端を発表された。湿原形成のモデル化には、厳密に物理的に定義された水や栄養塩の動きと植物の生長との関係を導き出すことが必要かつ十分な条件であるはずである。高層湿原と低層湿原とでは水との関わりはそれぞれ異なる。水がどの程度素早く動けるかによって栄養塩類の供給形態が異なり、生育する植物の種も量も生長も異なってくる。泥炭の成長は植物の生長によってもたらされるものとして植物の生長を定式化し、湿原のでき方、湿原に生じる微地形を定量化しようとする実証的な研究成果を分かりやすく話された。
 その一つ、美深町松山湿原の泥炭の成長に関するシミュレート結果を聴いて、私が長年抱いていた疑問が解消された。松山湿原は、標高900mの沼岳の頂上から100m下った尾根の溶岩の上に存在する高層湿原である。緩やかに膨らんだ中央の頂部分に小さな池塘があり、周囲にはミズゴケ、ワタスゲなどが生育し、アカエゾマツが二重の同心円状に並んでいる。溶岩流が固まって上に膨らんだような基盤を初期条件として泥炭の成長をシミュレートすると、勾配の変化点に高まりが生じ、中央の頂部分に池塘ができてくる。同心円状の高まり部分は相対的に地下水位が低く、アカエゾマツが生育することが実証された。
 湿原の保全・修復を効果的に進めるには、植物の生長を定式化し、湿原のでき方を定量化しようとする実証的な研究が必要であり、それらの研究が一層発展することを期待したい。
(レポーター:(株) エコニクス 油津雄夫)


■北海道支部 第1回技術セミナー・レポート 平成19年6月22日
海洋における地球温暖化の影響、CO2増加による海洋酸性化の脅威

講師:
北海道大学大学院地球環境科学研究院 准教授 山中康裕

 本セミナーでは、地球温暖化あるいはCO2の増加が海洋に与える影響、また地球温暖化を今後最小限に防いでいくための国際的取り組みなどに関する講演があった。
 地球温暖化の海洋への影響としては、第一にわれわれにとって非常に重要な食料である水産資源への影響があげられる。温暖化による海水温の上昇や植物プランクトン生産量の変化にともない、サンマなど回遊魚の回遊経路が変化し魚長が小さくなることや、餌不足による資源量の減少が危惧されている。また、CO2の増加による海洋の酸性化は、炭酸カルシウムの殻を作る動植物プランクトンやサンゴの量を減少させる可能性が高い。中和反応により炭酸カルシウムが溶け出すことで、それらが死滅してしまうからである。海洋の一次生産を支えるプランクトンの減少は、食物連鎖に重大な影響を与えると予測される。具体的な影響を知るためには数値モデルを利用するなど、今後更なる研究が必要である。
 温暖化問題に対する国際的な取り組みとしては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの活動があげられる。大気中のCO2濃度は、現在人間活動の影響により産業革命前の280ppmから380ppm程度にまで増加しているが、今後どうすれば自然や生物に対する影響の少ない濃度で安定させることができるかについて研究、議論されている。気温上昇を自然や生物への影響が懸念される目安の2℃以下に抑えるためには、CO2濃度を450ppm以下で安定させる必要があり、そのためには2050年までに世界のCO2排出量を現状の半分近くにまで削減しなければならない。これは京都議定書での排出削減目標の約20倍であり、途上国の削減対策への参加、省エネ技術の活用など、長期的展望に立った対策が望まれている。
 環境の仕事に携わる者として、また一人の人間として、公私を問わずCO2排出削減に努めていきたい。
(レポーター:(株)エコニクス 林田健志)



TOPに戻る