活動報告

支部報告 109

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■北海道支部 野外セミナー・レポート 平成17年9月2日
「北海道電力(株)京極水力発電所建設工事現場」の見学

 9月2日、道内初の純揚水式発電所である北海道電力(株)京極発電所(出力規模20万Kw×3機、1号機平成27年竣工予定)建設現場を訪れた。京極発電所の計画地点は、周辺に羊蹄山山麓、支笏洞爺国立公園などがあり、標高500〜900mの水源涵養保安林内に位置する自然豊かな地域であることから、事業実施にともなう環境への影響を最小にとどめるよう工事計画を進める必要がある。
 建設所では、「環境保全意識の徹底」「法令・基準の遵守」「目標の設定とモニタリング」「情報公開」の4点を基本方針とした環境保全対策を掲げ、建設所員や工事関係者が一体となり保全活動を行っていた。これらさまざまな保全活動のなかでも、とくにユニークなのは、小動物(とくにエゾサンショウウオ)の保護対策として、建設所が独自に考案した「ハイアガール」という簡易スロープを設置したことである。これは、建設現場内の林道や工事用道路に設置した集水升内に落下して脱出できない小動物を自力で脱出させるもので、設置後のモニタリングの結果からは十分に効果があったという。現場における創意工夫がうかがえた。
 また、小湿原への涵養水を補給する保全対策として融雪遅延柵(柵内に雪を貯蔵)なるものを設置している。遮光シートとの組み合わせにより融雪時期を遅らせ、融雪水による涵養水の供給期間を延ばすことで小湿原への涵養水の減少による影響をできるだけ緩和させることを目的とした実証試験を2年間にわたって実施してきた。本検討は将来的には湿原涵養機能が発揮されることを期待し、小湿原周辺において緑化を行う計画であり、植栽樹木による貯雪・貯水効果と併せ、融雪遅延の効果に関する基礎資料を得る目的も含まれているとの説明を受けた。
 このようなオリジナリティあふれる保全対策は、非常に興味深いものであった。
(レポーター:北電総合設計(株) 斎藤 綾佑)


■九州支部 環境シンポジウム
  「野外セミナー」&「研修セミナー」・レポート 平成17年10月29日・30日


野外セミナー「北川における河川生態学術研究の取り組みと成果」

 平成17年度の九州支部野外セミナーは、宮崎県延岡市および北川町を流れる一級河川の北川地区で行われた。北川は、平成9年に発生した大水害を受け、激甚災害対策特別緊急事業として河川敷の掘削等の改修が行われたが、同年の河川法改正にともなって治水・利水ばかりでなく、環境面にも配慮した初の適用事例である。事業の実施にあたっては、学識経験者による検討委員会が設立され、地元意見を幅広く聞き,多くのモニタリングや調査研究が行われるなど、この激甚災害対策特別緊急事業は、現在の自然再生事業の先駆けとも考えられる。
 最初に、北川支流の家田川付近の湿地植生を視察した。ヒメコウホネをはじめとした貴重な植物の大群落には圧倒された。ヒメコウホネが希少種とされているのがまったくうそのようであった。次に、的野地区の哺乳類マルチテレメトリー調査現場を視察した。河川改修事業によるタヌキ等の哺乳類の逃避行動や利用域の変化が具体的にモニタリングされたとのことであり、新たな調査手法の開発によって、アセスメントを行うための有用なデータが得られるのではないかと思われた。
 中流域では、鹿小路地区のカワスナガニ生息地を視察した。カワスナガニの生態はまだ不明な点が多く、自作と思われるサーバーネットを用いた生息調査の状況を見て、各現場に合わせた調査機材の必要性を感じた。
 最下流の友内川地区では、ハマガニ生息地を視察した。湿地の中では、大型のハマガニばかりでなくさまざまな生物を見ることができ、塩生湿地における生態系の多様性と重要性を再認識した。
 普段は清流を保っている北川の環境が今後も維持され、環境教育の場となることを望む。
(レポーター:(株)東京久栄 宮下 一明)

シンポジウム「世界に誇る多自然型事業、北川に見る治水事業の到達点」

基調講演
 九州大学 教授 島谷 幸宏/矢原 徹一 
 宮崎大学 教授 岩本 俊孝/杉尾 哲

パネリスト
 基調講演講師2名
 国土交通省九州地方整備局延岡河川国道事務所調査一課 課長 鶴崎 秀樹
 延岡市市民環境部生活環境課 主幹兼課長補佐 安本 潤一
 北川町町民生活課 課長 矢野 憲二

■基調講演

 「北川河川激甚災害対策特別緊急事業」での取り組みである河川生態学術研究会の根幹が、「生態的な視点より河川を理解し、川のあるべき姿を探る」ことにあり、従来の工学一辺倒な治水工事では、川は決して喜ばないということを改めて実感させられた。世界に誇る多自然型事業である北川の治水事業を身近に感じた2日間であった。
 講演の前日に、各研究対象のフィールドで委員の方々に研究成果の説明をいただいた。北川が長い年月をかけて育んできた豊かな河川環境と、それを一瞬で破壊してしまう洪水の傷跡を眺めながら、改めて「治水」の重要さを痛感した。と同時に、説明を聞きながらこの「治水」とその対角線上にある「自然環境」との共存・共栄こそが、われわれの進んで行くべき本道であると強く感じた。前日の野外セミナーにより、現地の状況があらかじめ頭の中にインプットされていたため、講演内容もスムーズに理解することができた。
 講演は研究会の委員である4名の講師により、現在までに得られた知見についてリアルタイムで報告があった。まず、島谷委員より北川における河川生態学術研究会の取り組みと成果についての概要説明があった。北川に生育・生息する豊富な希少生物の生態解明と激特事業による生態系へのインパクトアセスメントを主題とした研究は、それぞれ自由な発想から設定されたとの説明があり、従来の行政ではみられなかった調査・研究へのアプローチがなされていることに興味を覚えた。
 このことは、次の矢原委員の北川に生育する希少植物と植生に対する保全に関する講演や、続いての岩本委員による哺乳類のマルチテレメトリーの開発による生態系の保全に関する研究など、研究者自身がなみなみならぬ情熱を注いで取り組んでいる姿からもうかがい知ることができた。最後に、杉尾委員から北川総合研究に関する説明があり、研究会の積極的な活動についての報告があった。本セミナーで、北川と親密かつ有意義なひとときを過ごせたことに感謝する。

■パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、「これまでの北川 これからの北川」をテーマに、治水・利水と自然環境に配慮(保全・整備)した河川管理、河川管理における住民意見の反映等について議論された。
 今回のディスカッションの中でもっとも印象に残ったのは、延岡河川国道事務所の鶴崎課長による「北川は、全国で一番初めに環境と向き合う河川」という言葉であった。現在では、自然環境を考慮せずに事業を行うことはできないのが当たり前であるが、平成9年当時は、河川改修と環境保全・整備とは相反するものであった。このことは、河川工事の施工方法にも重大な影響を与えることが考えられ、環境に配慮した施工方法を構築しなければならなかったからである。
 河川改修工事に環境保全・整備を組み込むのか、環境に改修工事を組み込むのかは、非常に難しい問題であると思う。このディスカッションを拝聴して、それぞれ立場の違う関係者の合意形成について考えさせられるところがあった。立場、感情、利害関係等さまざまな要因のなかで、北川検討委員会の発足と検討会の一般公開を経て、事業主体、学識者および地域住民の意見をまとめ上げたことには大変敬意を表する。また、この事業をとおして地域住民の自然環境への関心が高くなり、ひいては環境教育の場としても北川を利用することになったことは大きいのではないだろうか。
 全国で最初の自然環境に配慮した北川の河川改修は、河川と地域住民および自然環境の共存を考えた河川本来のあるべき姿ではないかと思う。今後は、この河川改修が時間の経過とともに環境に対し、どのように影響して行くのか、別の機会に新たな講演として拝聴したい。
(レポーター:(財)九州環境管理協会 安東 茂/(株)SBCテクノ九州 田北 和文)

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