活動報告
理事会報告】 【セミナー・レポート】 【支部報告】 【研究会報告
Number 101Number 100Number 98| バックナンバー

支部報告 98

<<< BACK

■九州支部/福岡市 共催シンポジウム・レポート 平成14年11月28日
「新・生物多様性国家戦略シンポジウム」
―新国家戦略が示す3つの柱への新しい取り組み―

 福岡市と(社)日本環境アセスメント協会九州支部共催による「新・生物多様性国家戦略シンポジウム」が福岡市中央市民センターにおいて開催された。このシンポジウムでは副題に示すように『新国家戦略が示す3つの柱への新しい取り組み』について、官・学・民の視点から、4人の講師により事例が紹介された。また、後半からは九州大学名誉教授(北九州市「いのちのたび」博物館長)小野勇一先生をコーディネータに迎え、事例紹介の4講師によるパネルディスカッションも行われた。

◆基調講演 「新しい生物多様性国家戦略」
 環境省自然環境局自然環境計画課 課長補佐 植田明浩
 平成14年5月に環境省自然環境局から刊行された冊子「いのちは創れない−新・生物多様性国家戦略」をもとに、「新国家戦略とは?」を中心の命題として、環境省植田氏による懇切丁寧な解説が行われた。
 シンポジウムの副題に付く「3つの柱」の意味もこの冊子の中に述べられている。 この3つの柱を念頭に、環境省としても今後5年間を目安に(1) 絶滅防止と生態系の保全、(2) 里地里山の保全、(3) 自然の再生、(4) 移入種対策、(5) モニタリングサイト1000、(6) 市民参加・環境学習、(7) 国際協力、の7つの提案を速やかに実施される旨、力説されていた。
 このなかでも、日本全国を1,000のモニタリングサイトに分け長期的な調査を実施するといった話は、私たち環境アセスメントにかかわりのある企業にとって魅力的な話である。
◆事例紹介 「キャンパス造成と里山保全」
 九州大学理学部 教授 矢原徹一
 講師の九州大学矢原教授は、九州大学の移転工事にからんで発生してきた環境保全の問題に「環境との共生」との理念を持って、実地に取り組んでおられる。矢原教授は、植物学のご専門で、環境保全に関して独自の4原則を持っておられる。それは以下のような内容である。
 植物の移植等、環境保全を行う際には次のことに注意しなければならない。
1)生態系への影響を考え、復元には自生のものを用いる。また遥か離れた地域への移植は原則として行わない。
2)移植の際、生き物同士の相互関係を考えて、土壌生物や昆虫も一緒に移す。またここでいう相互関係とは、植物と動物間のもののみならず、植物間も意味する。
3)遺伝変異性の問題を考え、集団が持っている遺伝的特性を残す。
4)過去の経緯が後にわかるように、記録を残すようにする。
 矢原教授のグループは、この原則を遵守しながら九州大学統合移転工事にかかる環境保全措置に挑まれている。これら保全措置による効果は、今後、各地で同様の措置が行われる際、そのモデルとなるであろう。
◆事例紹介 「きらら浜自然観察公園−自然と人との共生」
 山口県立きらら浜自然観察公園 所長 中田榮一郎
 山口県阿知須干拓に生育・生息する野鳥を中心とする多様な生態系を保全するため、同干拓地内に自然観察施設が建設されている。同施設は、戦後、公共事業のニーズに従い、開発されてきた干拓事業を、時代の流れを受けて、また時代の要請により、市民の手で本来の自然環境へ回帰させようという試みであり、中心となっているのは行政ではなく、市民グループである。具体的な動きは1980年代からすでに起こっていたが、環境に対する市民への熱い関心が寄せられるなか、2001年4月から (財)日本野鳥の会山口県支部に、同公園の指導業務を委託している。
 シンポジウムの基本コンセプトである『3つの柱』のうち、三番目の「世代を超えた自然の利用を考えて、生物の多様性を減少させず、持続可能な利用を図ること」や、環境省植田氏の講演の中にもあった『7つの提案』の六番目「市民参加・環境学習」を具現している事例であり、今後の動向が注目される。
 ただ惜しむらくは、公園自体が目指す目標設定が分かりにくく、私としては一般市民に広く知れ渡るような基本理念をもっと前面に打ち出しても良いのではないかという感想を持った。
◆事例紹介 「都市圏におけるビオトープ事業」
 (株)アースクリエーション 代表取締役 小野 仁
 山口県のきらら浜の事例は、公共事業が時代のニーズに合わせて、市民活動へ移行したという、いわば入れ物付きの例であったが、小野氏による今回の事例は、そういった入れ物が無い場合、市民の立場から環境管理部門へどのようなアプローチを行ってゆけば良いのかを具体例で示しながらの紹介であった。
 小野氏の事例とは若干ニュアンスが異なるかもしれないが、ここ九州では佐賀県松浦において『アザメの瀬』再生プロジェクトという具体例が存在する。
 これは国土交通省武雄工事事務所と『アザメの瀬』がある相知町が中心となり、『アザメの瀬』を昔(30〜40年前)の姿に戻そうという運動である。旗振りは行政であるが、運動の中心となっているのは、いわゆる近所の「オッチャン、オバチャン」たちで、従来日本で行われてきた行政指導型の公共事業とは一線を画す。本年度は「自然再生推進法」が本格施行されることとなり、ますます市民を中心とした『顔の見える公共事業』が必要な時代となってきた。
◆事例紹介総括
 どの講師も講演内容の中で「地域住民との合意形成」について力説されていた。
 従来型のアセスではどうしても事業者サイドに立った調査結果ないしは予測結果になりがちであったものを、その場所で生活する、また生活してゆく住民サイドで考えなければ、今後の公共事業は成り立たない。私たちコンサルとしても「環境アワセメント」などと言われないよう、今後の業務に「合意形成」という考え方を生かしてゆくべきではないだろうか。
(レポーター:環境テクノス(株)小野原一)

■パネルディスカッション
「環境アセスメントとミチゲーション」

―生物多様性国家戦略が示す新しい機軸―

 小野勇一先生をコーディネータに迎え、シンポジウムの基調講演・事例発表の4講師のパネリストによる表題のパネルディスカッションが行われた。討論は、会場からの質問票と各パネリストの回答をもとに進められた。そのなかで、私の注目したミチゲーションの手法に関する討論内容を、以下に整理して報告する。
1)森林のお引っ越しは、有効か?
 環境影響評価では、在来樹木の緑化方法として、播種、幼苗、根株などが用いられているが、九州大学移転にともなう森林のお引っ越しでは、専用の重機を用いて低中木の根茎と表土をセットにした移植が行われた。千葉県立博物館でも同様の事例があるが、樹幹の衰退・胴吹きに加え、帰化植物の繁茂などが報告されている。
 九州大学移転の事例では、確かに帰化植物の一時的な繁茂があるが、埋土種子群の発芽により貴重な在来種(コシオガマ)がお花畑をつくるなど、表土保全の意味は大きいことが確認された。また、森林の復元速度を考えると、九州大学移転では5m程度の樹木を移植したため、幼苗植裁と比べて樹高の復元速度が早いことも期待される。 2)田畑森林に囲まれた地域にビオトープを設置する意味があるか?
 ビオトープというと、私はいつも、その用語の使い方にしても事業の内容にしても違和感を覚えてしまうことが多いが、「生き物のにぎわい」を確保し、人々の生活に潤いをもたらす社会学的・人文学的な取り組みと解釈するようにしている。
 コーディネータは「自然には自然的自然と人為的自然があって、田畑森林に囲まれた地域は自然的自然が豊富にあるのだから、人為的自然(ビオトープ的整備)を持ち込む必要性には疑問がある」との意見であった。理学的な判断として正論であるが、ビオトープの目標が、社会学的・人文学的なものであるとすれば、そして、それができて地域の人々の生活に喜びや潤いがもたらされるものであれば、別の評価もあり得るところがビオトープたるゆえんであろう。
3)保護区の大きさや形はどうあるべきか?
 保護区は、極力大きな面積を確保することが種多様性の確保につながる。このことは植物生態学で確かめられている。しかし、環境影響評価では、事業者が責任を持てる範囲の面積に限られることが多いため、生態系ネットワークを考慮することが重要となる。雄ガメは繁殖期に2〜3km移動するのは平気であり、鳥類の多様性には植物の多様性に依存性がある、池の水生生物は限られた資源に依存しているなどの事実からして、水辺と植物の保全が生態系の骨組みを形づくるうえで重要である。
4)環境影響評価へ望むもの
 最後にパネリストから、貴重種の評価に関しては全国の絶滅確率を考慮した検討を行うべきであることと、方法書に対する意見が少なすぎるため環境影響評価について、より一層のPRが必要であるとの意見が出された。
(レポーター:日本工営(株)長崎 均)

<<< BACK



TOPに戻る